色出しの美しさは業界随一、コードバン専門の加工・染色工房 「レーデルオガワ」

稀少で高価だから使うのではない
その美しさに惚れたから使う

稀少で高価な馬革、コードバン。馬の尻の革の毛根に近い層のことで、美しい革になるコードバン層を作れる馬は限られた血統のみ。原皮自体が市場に出回らない理由も頷ける。
日本でコードバンと言えば、姫路にあるコードバン専門タンナー・新喜皮革だろう。その新喜皮革からコードバンの下地を納入し、二次加工している染色工房がある。色出しの美しさは業界随一とも評され、コードバン専門の加工・染色工房として40年以上の歴史を持つレーデルオガワだ。コードバンの特性は、他の革にはないツルツルした表面。光沢があり、使い続けるとさらに光沢が増す。
その光沢を最大限に活かし、美しい艶と透明感を宿したコードバンを生み出すのがレーデルオガワの染色技術「アニリン染め」だ。革の中まで染料を入れる水染めとも異なり、アニリン染めは革の表面にだけ染料を入れる特殊技術。
コードバンの歴史を変えたと言われる、この門外不出の染色方法を実践できる染色工房は、世界中を見渡してもレーデルオガワ以外には見つからない。

各工程ごとに職人が技を尽くし
アニリン染めのコードバンを生み出す

アニリン染めのコードバンは、キャリア10年以上の職人によるバトンリレーによって生み出される。つまり、各工程ごとに熟練職人を配置し、職人はひとつの工程に専念する。作業に高い技術と経験が求められるからだ。
油と水の抜け具合、革の乾燥具合(もちろん自然乾燥)も、職人の感覚で判断。コードバンが革の宝石と呼ばれる理由のひとつ、革を削って層を発掘する作業も、職人の目が頼りだ。機械に任すことは出来ない。革の善し悪しを決める最も重要な工程である「磨き」でも、まるでバーテンダーがグラスを磨いているかの如く、慎重かつ丁寧に磨かれる。
そして肝心の染色が実行されるのは、レーデルオガワの工場長と取締役の2人しか入れないというシークレットルーム。染めるための原料、レシピ、工程、すべてがトップシークレットだ。
これがアニリン染めが門外不出と呼ばれる理由だが、仮にレシピが公になったとしても、レーデルオガワの色出しに勝るコードバンは出てこない。なぜなら、このアニリン染めの技術は染色だけでなく、最初の工程から決して真似できない手間と職人の技が尽くされているからだ。

先代から受け継いだ技術という宝
レーデルオガワは、さらに進化する

コードバンの歴史を変えたと言われる「アニリン染め」は、創業者で先代の小川三郎さんが開発した染色技術だ。
小川さんは終戦直後の18歳で京都大学の皮革研究所に研究助手として入所。革についてみっちり勉強する。そして、軍の将校が履いていたコードバン製のブーツを見て「この革は商売になる!」と決意し、千葉県流山市で創業。牛革や豚革を染色する時代もあったが、新喜皮革との取り引きが始まってからはコードバン一筋だ。「先代は常に革のことしか考えていない、寡黙な人でした。口癖と言ったら“革はおもしろい”ですから(笑)」と語るのは、先代の外孫で現・取締役の飛田英樹さん。
よく面倒を見てくれた先代が亡くなった後、それまで気にもとめていなかった工房で見たコードバンの美しさに心を奪われ、継ぐ決意をしたそう。今年(2016年)で入社4年目。ひと通りの工程を習得した今も、挑戦の日々だ。
「コードバンの美しさでは、世界一を目指しています。先代は亡くなる少し前に、ようやく思い通りの革を仕上げられるようになったそうです。18歳から革一筋に研究を重ねてきた人が、何十年もかけて見つけ出した染色技術。その弊社独自の技術を守りながら、さらに美しさの追求をしていくのが僕らの役割だと思っています。これからも精進を重ねて、オーラをまとった革を作っていきたいです」。

現・取締役の飛田英樹さん(右)